世界中の都市は、パリ協定で定められた1.5℃の軌道に乗るために排出削減目標を設定しています。新型コロナウイルス感染拡大からの回復を目指す中、都市は強力な気候変動対策とグリーン経済の回復を優先する必要があります。気候変動対策のコベネフィットの理解は、ヘルシンキやセベランプライなどの都市の低炭素経済の推進に役立っています。
ヘルシンキ-気候変動アクションにかかる意思決定にコベネフィットを使用
フィンランドの首都、ヘルシンキはフィンランド湾の海岸にある島々の群島にあります。気候変動による影響はすでに生じており、2010年と2018年の熱波では、特に都市の高齢者に影響を及ぼし、超過死亡が増加しています。激しい暴風雨、高潮、洪水、熱波などの気候関連の危険も、頻度と強度が増加すると予想されます。
ヘルシンキは、2035年までにカーボンニュートラルになる(carbon neutral by 2035)という野心的な目標を設定しました。これは、排出量を80%削減し、残りの20%はオフセットで対応することで達成するというものです。同市はすでに大きな進歩を遂げており、2015年には1990年比で排出量を26%削減しました。
さらに、「カーボンニュートラル・ヘルシンキ2035アクションプラン」(Carbon-neutral Helsinki 2035 Action Plan)に示されているように、同市は運輸・建物・消費・経済の各セクターの脱炭素化を遂行しています。ヘルシンキは、同市の主要な利害関係者とエンゲージメントを行い、その行動の進捗状況を追跡することにより、説明責任を果たしています。これらのアクションは同市に幅広い利益をもたらしており、同市は、それが、同市の意思決定に役立ったコベネフィットアプローチによるものと認識しています。計画の各アクションについて、同市はそのアクションがもたらす他のコベネフィットと、実行の際の潜在的な課題を明らかにしました。例えば、ヘルシンキで電気自動車の割合を増やすと、大気質が改善され、騒音が減少するといったようなことです。
同市はコンサルタントと協力して、各気候変動対策の、同市や他都市の利害関係者に与える直接的な財務的インパクトも推定しました。これにより、各アクションの費用対効果の見積もりが提供され、同市は財務的に最も実行可能なアクションに投資できるようになりました。例えば、建物から未使用の廃熱を回収することは、そのようなアクションの一つです。これには、2035年までに同市から620万ユーロ、他の建物所有者から1,590万ユーロの追加投資が必要になります。年間費用節約額は、すべての関係者の年間費用を超えると推定されており、ヘルシンキ市と市民にとって経済的に実行可能な選択肢となる可能性があります。
今後、同市は低炭素経済の構築の実現に向けて十分な情報に基づいた投資決定を行えるよう、計画の気候変動対策について、経済的インパクトを含む追加のインパクト評価を実施する予定です。
セベランプライ-技術と自然を利用して、低炭素経済を構築
地球の反対側にある他の都市も、低炭素経済を構築することの利点を知っています。セベランプライには100万人が住んでおり、マレー半島のペナン州に位置します。すべての世界の都市と同様に、気候変動はセベランプライに深刻な影響を与えます。同市内の気温は2030年までに1.5℃上昇すると予想されており、ヒートストレスのリスクを悪化させています。 また、セベランプライは洪水に対して脆弱であり、2017年には2015年の2倍の洪水が発生しました。
また、同市は60歳以上の市民の数が今後10年間で倍増すると予想されており、他にも多くの課題に直面しています。同市内の世帯の16%は経済的に脆弱であると考えられており、不平等の拡大の兆候があります。同時に、同市にはグリーン経済を成長させるための魅力的かつ具体的な機会も存在しています。
2019年に発表されたペナン2030プラン(Penang 2030 plan)では、セベランプライとペナン州は、2030年までに「家族に焦点を当てた、環境に配慮したスマートな状態」になるという包括的な目標を設定しましたが、これに気候変動対策へのコベネフィットアプローチを活用しています。目標を達成するために、気候緩和策と適応行動を実施するだけでなく、市民の生活の質を改善し、経済成長をもたらし、社会的不平等を減らし、連結性とスマートテクノロジーを増やすことを計画しています。
そのようなスマートテクノロジーの1つは、より持続可能な行動への移行を促進する、同市の「生活のためのリサイクル」(Recycle for Life」プログラムに役立てられています。参加している同市職員は、スマートカードを使用して物の重さを測定し、報酬を受けることで、リサイクル可能なアイテムを現金に換えることができます。これまでに3,000人以上の同市職員が参加しています。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、このプログラムは勢いを維持し、プラスチックの使用にかかる社会の意識啓発とエンゲージメントを推進するために、新しいキャンペーン「家で過ごしてリサイクルをしよう」(Please Stay at Home and Let’s Recycle)が開始されました。
気候適応と緩和策に対する自然ベースの方法もセベランプライの気候行動の中核であり、2018年から2022年までに5万本の木を植える計画があります。2018年9月の時点で25万5,315本が植えられており、すでに目標を遥かに超えています。年間3,300トンの温室効果ガスを隔離すると推定され、これは1年間に運転される713台の自動車に相当します。また、このプロジェクトは洪水のリスクから同市を守るとともに、同市で生まれたすべての子供に1本の木を植えることを奨励するといったコミュニティの市民とのエンゲージメントを強化しています。
これらの目標やその他の目標の達成における進捗状況を追跡するために、同市は計画の各アクションについて複数の測定可能な目標を明らかにしました。たとえば、設定されたアクションは、デジタル時代とグリーン経済に向けた、医療・診断・航空宇宙産業を含む地元の製造業の準備を強化することです。同市は、このアクションの進捗状況を評価するために3つの測定可能な目標を設定しました。
これらの目標は、同市が企業と協力して、新たなグリーン雇用のために市民をスキルアップさせ、低炭素経済を加速させていることを表しています。
ヘルシンキとセベランプライはどちらも低酸素経済を実現しながら、気候変動に正面から取り組むために力を尽くしています。これに対処するために、2つの都市は、提供されるコベネフィットを十分に理解した上で、低炭素経済を構築する機会を利用しています。これにより、ヘルシンキとセベランプライは将来の気候変動に対してのレジリエンスが強化されています。